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広島地方裁判所 昭和58年(行ウ)8号 判決

広島県佐伯郡甘日市町阿品台二-一三-四一

原告

矢野智司

広島市中区上八丁堀三番一九号

被告

広島東税務署長

兼弘恒男

右指定代理人

馬場久枝

工藤真義

岡山昭陽

井藤治幸

我本登

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和五六年分所得税について被告が昭和五七年八月一八日付でした納付すべき税額二一〇万四〇〇〇円とする更正処分及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件処分)

原告は給与所得者であるが、昭和五六年分の所得税の確定申告書の特例適用条文欄に居住用財産の譲渡所得の特別控除に関する規定である「措法三五条」と記入の上、給与所得の金額六八八万三二四七円、分離短期譲渡所得の金額零円、納付すべき税額零円として申告したところ、被告は、昭和五七年八月一八日、右分離短期譲渡所得の金額を五二六万〇〇二八円とし、納付すべき税額二一〇万四〇〇〇円とする更正処分及び金額六三万一二〇〇円の重加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という)をした。

2(異義申立て、審査請求)

原告は、右処分を不服として昭和五七年八月三一日被告に対し異議申立てをしたが、被告は同年一〇月一日これを棄却する旨の決定をした。さらに、原告は同年一〇月二六日広島国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は同五八年三月二八日これを棄却する旨の裁決をした。

3(違法事由)

しかし、本件各処分には以下のような違法事由がある。

(一)  原告は、その所有していた東広島市高屋町大字郷一一二三番地の八四所在の家屋(家屋番号一一二三番八四、平家建居宅床面積六二・二二平方メートル、以下「本件家屋」という)及びその家屋の敷地の用に供していた宅地一八一・八七平方メートル(以下「本件宅地」といい、なお右宅地と家屋を併せて「本件物件」という。)につき、株式会社共立ハウジング(以下「共立ハウジング」という)との間で昭和五六年四月三〇日代金八五〇万円にて売買契約を締結したが、原告は同年三月三一日から同年九月二五日まで本件物件を居住の用に供していたので、租税特別措置法(以下「措置法」という)三五条一項の適用があるというべきであるから、この適用を認めなかった本件更正処分及び重加算税の賦課決定処分は事実及び法律判断を誤ったもので、いずれも違法である。

(二)  被告は、本件更正処分が原告にとって居住用財産の譲渡所得の特別控除を剥奪する不利益処分であるにもかかわらず、右更正通知書に納得しうる程度の理由を記載しなかったのは違法である。

4(結論)

よって、原告は、被告が原告に対してなした本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実中、国税不服審判所長が原告の審査請求を棄却する裁決をしたのは昭和五八年三月一五日で同裁決書謄本を発送したのが同年三月二八日であることのほかは、すべて認める。

3  同3(一)の事実中、原告がその所有していた本件物件につき共立ハウジングとの間で昭和五六年四月三〇日代金八五〇万円にて売買契約を締結したことは認めるが、その余の事実及び主張は争う。

同3(二)の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和五六年分所得税の課税内容及び経過は別表一「課税経過表」記載のとおりであり、そのうち、本件物件譲渡による収入金額及び取得費等分離短期譲渡所得金額の計算内容は、別表二「分離短期譲渡所得金額の計算書」記載のとおりである。

2  原告は、右分離短期譲渡所得金額の算定につき、本件物件の譲渡は措置法三五条所定の居住用財産の譲渡に該当するからその譲渡所得の算定に同条所定の特別控除を適用すべきであるとして、分離短期譲渡所得金額を零円としている。

しかし、右譲渡については、以下述べるような事実から同条の適用はない。

(一) 原告は、昭和四六年に本件物件を取得し、同四八年七月末ころまで家族(妻及び子供三人)とともに居住していたが、同年同月末ころ家族全員とともに広島市中区白島北町一八番三-一〇一四号の家屋(以下「長寿園住宅」という。)に住所を移転した。

(二) 昭和四八年夏ころ以降、本件家屋は空屋であって、誰も同家屋に居住していなかった。

(三) 原告は、昭和五三年一二月一七日、同人の勤務先である広島テレビ放送株式会社に対し、長寿園住宅を自己の住所として届出ており、その後、原告が本件物件を譲渡するまで住所の変更届を提出しておらず、そのため、同社より白島北町から同社までの通勤手当の支給を受けている。

(四) 原告は、昭和五四年九月中旬から同五六年三月三〇日まで、本件物件を賃料一ヶ月二万五〇〇〇円の約で訴外吉川隆に賃貸していたが、同人は同五五年末ころ原告から本件物件を売却するから立退いてほしい旨要請され、同五六年三月三〇日ころ本件家屋を立退いた。

(五) 原告は、昭和五六年二月はじめころ、共立ハウジングに本件物件の売買についての仲介を依頼し、その後同年四月三〇日、同社との間で本件物件の売買契約を締結し同年八月二一日までに、右代金八五〇万円を受領している。

(六) 本件家屋の解体工事を行なった金子建設有限会社の代表取締役金子力が、昭和五六年四月二〇日ころ右工事見積のため本件家屋を見に行き、その際屋内に入ったが、同家屋には家具類等は全くなく空屋であった。

(七) 本件家屋の所在地を管轄する町内会長市川芳子は、自治会の帳簿に原告の住所連絡先として長寿園住宅が記載されていたので、同所へ電気代、水道代及び町内会費を請求したところ、原告は同女に対し、現金にてそれらを送金してきた。

(八) 本件家屋は、昭和五六年七月末に取り壊されたが、同年四月から七月末までの間の本件家屋における電気、水道の各使用量は零又は僅少であった。

(九) 原告の勤務先である広島テレビ放送株式会社は広島市中区中町六番六号にあり、本件家屋の最寄りの駅である国鉄西高屋駅から広島駅までは往復に約一時間三〇分を要し、長寿園住宅の方が通勤にはるかに便利である。

(十) 長寿園住宅における昭和五六年四月以降同年一二月までの間の電気、ガス及び水道の各使用量はそれ以前と比較して格別の変化はない。

(十一) 原告の妻及び三人の子は昭和四八年七月末ころから現在に至るまで長寿園住宅に居住している。

右各事実からすると、原告が本件物件を措置法三五条一項所定の居住の用に供していたものとは認められず、したがって、右同条の適用はなく、この特別控除を認めなかった本件更正処分は適法である。

3  原告は、本件物件を居住の用に供していなかったにもかかわらず、専ら措置法三五条一項の適用を受けるため、あたかも昭和五六年三月三一日から同年九月二五日までの間本件家屋に居住したかのごとく仮装して、その転入手続を経た東広島市長発行の住民票の写しを添付し、それにもとづいて本件確定申告をしたもので、原告の右行為は国税通則法六八条一項にいう事実の仮装にあたるものであるから、同条項を適用して原告に対してなした被告の本件重加算税の賦課決定処分も適法である。

4  国税通則法二八条一項、二項によれば、更正は同法二八条二項に掲記の事項を記載した更正通知書を税務署長が送達して行なうことになっているところ、右同条二項には更正の理由を記載すべきものとは規定していない。また、原告の理由を記載すべきものとは規定していない。また、原告は所得税法一四三条所定の青色申告書を提出する者ではないところ、所得税法一五五条二項の理由附記に関する規定は青色申告書に係る更正の場合の規定で、本件更正には適用なく、結局、本件更正通知書に理由の記載を欠いても違法ではない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実中、別表二のうち、総収入金額、取得費(1)、同(2)Aは認める。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実は否認する。原告は、昭和四八年七月、八月ころ家族全員が移転した後も昭和五六年三月末までは必要に応じて利用したり、近所の人に便宜的に利用させたりしていた。人に使用させるときは、使用のお礼の趣旨で若干のものをもらっていたが、家賃程のものではない。

(三)  同(四)の事実のうち、原告が昭和五四、五年ころから同五六年三月三〇日まで本件物件を訴外吉川隆に賃貸していたことは認める。

(四)  同(五)の事実のうち、原告が昭和五六年四月三〇日共立ハウジングとの間で本件物件の売買契約を締結したことは認める。

(五)  同(六)の事実は否認する。原告は試験準備(勉強)のため共立ハウジングの了解を得て本件建物に昭和五六年三月末から同年七月中旬ころまで一人で住んでいたのであるから、家具類等は不要であったし、生活に必要なものは常に持ち歩いていた。

(六)  同(七)の事実につき、原告が電気代等を送金していたのは、市川が常に留守であることに加え、原告が不規則勤務のためやむえない手段であった。

(七)  同(八)の主張は争う。

(八)  同(九)の主張は争う。原告が本件家屋へ入居したのは、長寿園住宅は狭いので、子供三人の受験勉強と原告の資格試験取得のための勉強とを両立させるためにやむをえないものであった。

(九)  同(十一)の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

4  同4の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1の事実及び同2の事実中裁決の日を除くその余の事実、並びに別表二中総収入金額、取得費(1)(2)Aの事実、また、原告は昭和五六年四月三〇日共立ハウジングとの間で原告が所有していた本件物件の売買契約を締結した事実は当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によれば、別表一のその余の事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

二  そこで、まず、本件物件の譲渡所得の算定につき、措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)の規定の適用があるかの点について以下検討する。

1  成立に争いのない甲第七号証、乙第一、第二号証、乙第四号証の一ないし四、乙第五号証の二、乙第七号証の二、三、乙第九号証、乙第一三号証の一ないし四、乙第一五号証の一ないし三、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される乙第三号証、乙第五号証の一、乙第六号証、乙第七号証の一、乙第八号証の一、乙第一〇号証、乙第一一号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八号証の二ないし四、乙第一一号証の二ないし五、乙第一二号証、乙第一四号証、乙一六号証の一、二、乙第一九号証、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右甲第七号証、乙年二号証、乙第三号証中右認定に反する部分は措信しがたく、他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告は昭和四六年二月二一日本件宅地を買受けた後同年一二月下旬ころその宅地上に本件家屋を新築して、同家屋に家族(妻、子三人)とともに昭和四八年七月末ころまで居住していたが、同年八月ころから原告ら全員長寿園住宅に移住し、本件家屋は空屋となった。

(二)  原告は、当時広島市中区中町にある広島テレビ放送株式会社に勤めていたが、昭和五三年一二月一七日右勤務先に対し長寿園住宅を自己の住宅として届出ており、その後、原告が本件物件を共立ハウジングに譲渡するまで住所の変更届をしておらず、そのため、同社より白島北町から同社までの通勤手当の支給を受けていた。

(三)  原告は、昭和五四年九月中旬ころから本件家屋を訴外吉川隆へ賃料一ヶ月二万五〇〇〇円で賃貸した。

(四)  原告は、その所有の広島県佐伯郡甘日市町所在の甘日市ニュータウンの土地に家を建築するため資金が必要となり本件物件を処分しようと考え昭和五五年春ころ共立ハウジングの家造り資料館を訪れ、共立ハウジングの営業部係員から資料の交付を受け、その後、右のことがきっかけで、同年一二月ころ、今年は共立ハウジングの北村営業部長が原告の勤務先を訪れ、原告と面接して右折衝したりした。

(五)  原告は、昭和五五年一二月ころ、賃借人吉川隆に対して手紙で、本件物件を処分するので明け渡してほしい旨要請し、折り返し右吉川からの電話による問い合わせに対して、昭和五六年二月までに明け渡しを希望する旨伝えた。その後右双方交渉のうえ右吉川隆は昭和五六年三月三〇日までに立退くことになった。

(六)  原告は、昭和五六年二月はじめころ、共立ハウジングに対して、本件物件の販売の仲介依頼をし、また買(下)取りの打診をした。これにより右北村営業部長は共立ハウジング東広島営業所に本件物件の確認と価格の見積り方を指示し、同月中旬ころ同営業所において本件物件仲介の新聞の折り込み広告をした。

(七)  本件家屋の賃借人吉川は昭和五六年三月三〇日右家屋を明渡した。

(八)  原告は同年三月三一日その住民票の住所を長寿園住宅から本件物件所在地に移した。右住民票の住所は同年九月二五日再び本件物件所在地から長寿園住宅に移されている。

(九)  昭和五六年四月二〇日ころ、共立ハウジングから本件家屋の解体及び移築方を頼まれた金子建設有限会社の代表取締役金子力は、共立ハウジング東広島営業所長三井俊治と一緒に本件家屋を見に行き、家の中にも入ったが、家具類は全くなく空き家の状態であった。金子建設有限会社は同月二五日右見積書(総額三一〇万円)を作成している。

(十)  その後、原告は、同年四月三〇日共立ハウジングと本件物件の売買契約を締結したが、その売買代金は八五〇万円で、引渡し期日は同年三一日とされ、特約事項として、本件家屋は無償にて買主に引渡すものと定められていた。なお、右代金は支払ずみである。

(十一)  本件家屋は、金子建設有限会社において昭和五六年七月二九日その解体工事に着手し、同月三一日右工事を終了した。

(十二)  本件家屋における昭和五六年四月から同年七月末までの間の電気、水道(基本料金のみ支払)の使用料は雰又は僅少であった。

(十三)  長寿園住宅における昭和五六年四月以降同年一二月までの間の電気、ガス及び水道の各使用料は前年の同月分と比較してほとんど変化はない。

(十四)  本件家屋のある鯉城団地の町内会長市川芳子は、昭和五六年四月以降、原告が本件家屋に居ないため、本件家屋の関係の電気代、水道代、町内会費の集金を、自治会の帳簿に原告の住所連絡先として記載されていた白島北町の長寿園住宅の方へ手紙で請求し、原告は現金書留で右現金を送って来ていた。原告が直接払いに来たことは一回もない。右市川は、大蔵事務官に対する質問応答で、市川が昭和五六年四月町会長になってからは、原告は鯉城団地に住んでいなかった旨述べている。

(十五)  原告の家族は、妻と子三人で、昭和五六年三人の子は、長女高校二年、次女中学三年、三女中学一年であり、そして、長寿園住宅は、いわゆる三LDKの広さであるが、右妻、子三人は、前記昭和五六年四月以降も引続き長寿園住宅に居住している。

なお、原告は、昭和五四年七月一五日実施の昭和五四年度司法書士試験筆記試験受験票、昭和 五四年一〇月二一日実施の昭和五四年宅地建物取引主任者資格試験受験票、昭和五五年五月一一日実施の昭和五五年度司法試験第二次試験(短答式)受験票、昭和五六年七月一二日実施の昭年五六年度司法書士試験筆記試験受験票、昭和五七年五月二三日実施の昭和五七年測量士・測量士補試験受験票を有し、当時それぞれの受験を予定していた。

2  右各認定事実からすると、原告は、昭和四八年八月ころ以降、本件家屋をその敷地とともに共立ハウジングに売渡し、同家屋を解体した昭和五六年七月末日までの間(八年間)、本件家屋を空屋もしくは他に賃貸するなどしていたもので、原告の居住の用に供していたものとは認められない。

3  原告は、昭和五六年当時、原告自身同年七月一二日実施の司法書士試験を予定していたほか、子三人も大学、高校の受験勉強を必要とする時期であったことから、このためには長寿園住宅では狭隘であり、原告の右受験勉強に利用するため、昭和五六年三月三一日本件家屋に原告の住民登録を移し、以後同家屋を原告の生活の本拠とした旨主張している。

たしかに、原告が右受験を予定し、子三人が受験勉強を必要とする時期にあったこと、また、原告がその主張の日に本件家屋に住民登録を移している事実は、前認定のとおりこれらを認めることができるが、前記各認定事実に照らすと、原告が昭和五六年三月三一日以降本件家屋を現実に居住利用していたような事実は容易に肯認しがたい。

のみならず、仮に、原告が本件家屋をその受験勉強等に一時的に利用することを予定し、また、それらのため時偶本件家屋に赴くようなことがあったとしても、元来、措置法三五条一項は、個人が、その実際の生活及び利用状況等からして、客観的にその生活の本拠として使用しているものとみられるような家屋を、その敷地とともに他に譲渡した場合に、その譲渡所得税の負担を減じて買換えを容易にしようとしたものであり、同条一項所定の「居住の用に供している家屋」とは右趣旨のものに解され、前記各認定事実からうかがわれるように、原告がその譲渡前ころになって、セカンドハウス的に一時的な利用を予定したにすぎないような本件家屋は、原告の内心の意図如何にかかわらず、客観的には生活の本拠とはみられず、右同条一項所定の「居住の用に供している家屋」とは到底認めがたいところである。

4  そうすると、本件譲渡所得の算定につき措置法三五条一項の適用を認めなかったことは正当で、なんら違法はない。そして、前記認定等の事実からして、右のことを前提に、本件物件の譲渡につきなされた被告の分離短期譲渡所得金額の算定にも違法はない。

三  次に、被告の原告に対してなした本件重加算税の賦課決定の適否について判断する。

前記二1の各認定事実からすると、原告は、その生活の本拠として本件家屋を居住の用に供するものでないにかかわらず、措置法三五条一項の適用を受けるために、昭和五六年三月三一日本件物件所在地に住民票の住所を移して右居住の外形を作出したものと認められ、そして、前掲乙第一号証によれば、原告は、昭和五六年分の所得税の確定申告書に右住民票の写しを添付して、本件確定申告に及んでいることが認められる。

原告の行為は国税通則法六八条一項所定の税額等の計算の基礎となる事実を仮装したものと認めるに十分で、同条項を適用して原告に対してなした被告の本件重加算税の賦課決定処分は適法なものといえる。

四  そして、本件更正通知書に理由の記載がない旨の原告の主張について判断する。

成立につき争いのない甲第一号証によると、たしかに、本件更正通知書の「処分の理由」欄には、原告の譲渡所得については居住用財産の譲渡所得の特別控除は適用されない旨、加算税については国税通則法六八条一項の規定による旨、の記載がなされているのみであることがうかがわれる。

しかし、国税通則法二八条一項、二項によれば、更正は同条二項に掲記の事項を記載した更正通知書を税務署長が送達して行なうことになっており、そして、右記載すべき事項のうちには、右更正の理由は含まれていないうえ、他方、弁論の全趣旨により、原告は青色申告書を提出する者でないことが明らかであるところ、所得税法一五五条二項によると、青色申告書に係る年分の所得金額の更正をする場合には、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない、と規定している。これらからすると、青色申告書を提出する者でない原告の場合、その更正通知書には、法上理由の記載は要求されていないと解されるところ、本件の場合、少なくとも、その根拠を示す程度の前記記載はなされているわけで、いずれにしても、この点なんら違法はないといえる。よって、原告の右主張は理由がない。

五  なお、前記各認定等の事実からすると、本件各処分にその他の違法も認められない。

六  以上によると、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺伸平 裁判官 吉岡浩 裁判官 窪木稔)

別表一 課税経緯表

〈省略〉

別表二 分離短期譲渡所得金額の計算書

〈省略〉

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